01暗号資産のトラベルルールとは
銀行の海外送金では、誰から誰への送金かが必ず記録されます。トラベルルールは、この昔からある銀行のルールを暗号資産に持ち込んだものです。金融活動作業部会(FATF)の勧告16は、暗号資産交換業者(取引所やカストディ型ウォレットなど)同士で暗号資産を送るとき、送金人と受取人の情報を収集して相手に通知することを求めています。受け手の業者はその情報を確認しなければなりません。
通知する情報は国によって異なりますが、少なくとも送金人の氏名、送金人の口座またはウォレットアドレス、受取人の氏名、受取人のウォレットアドレスが含まれるのが一般的です。高額の送金では身分証番号、住所、生年月日が求められることもあります。これらの情報はブロックチェーン上には載らず、取引所同士の専用システムでやりとりされます。韓国ではCODEとVerifyVASPがよく使われています。
問題は、送り手と受け手の取引所がつながっていなければならないことです。同じか相互接続できる通知システムを使い、お互いを適法な業者として認めている必要があります。つながらなければ、送金はブロックされるか、保留されるか、返金されます。同じUSDTがAからBへは数秒で届くのに、AからCへは拒否されるのはこのためです。
02アジア各国のトラベルルールと基準額
FATFが示す基準額は1,000米ドル/ユーロですが、各国はもっと厳しくしてもかまいません。下の表は、当編集部の調査によるアジア主要市場の状況です。「当編集部の調査による」とした項目は2026年10月に原文で確認できていないため、規制当局の公表資料を優先してください。
| 市場 | 基準額 | ポイント |
|---|---|---|
| 日本 | なし | 2023年6月から資金決済法と犯罪収益移転防止法にもとづき運用。すべての送金で情報を通知し、一部の海外取引所への送金は制限(当編集部の調査による)。 |
| 韓国 | 100万ウォン | 2022年3月から施行され、世界でも最初期の法制化。申告済みまたはホワイトリストの業者にしか送れず、未申告の海外業者はブロック。2026年8月11日に閣議で基準額の撤廃が承認され、2027年2月20日からすべての取引所間送金に適用。 |
| 香港 | 8,000香港ドル | 2023年6月1日からAMLO附表2第13A条にもとづき施行。基準額未満でも簡略な情報が必要で、相手先プラットフォームと非ホスト型ウォレットにはデューデリジェンスを実施。 |
| シンガポール | 1,500シンガポールドル | 2020年1月からMAS通達PSN02にもとづき施行(当編集部の調査による)。 |
| フィリピン | 5万ペソ | BSP通達1108号(2021年)にもとづく。 |
| 台湾・インド・インドネシア・タイ・マレーシア | 国により異なる | それぞれFSC、FIU-IND、OJK、タイSEC、マレーシア証券委員会のマネロン規則で導入(当編集部の調査による)。 |
| UAE | — | VARAとADGMの規則で運用。 |
FATFの2025年の追跡調査では、トラベルルールをまだ施行していない国・地域が多く残っていると指摘されています。そうした地域の業者への送金はブロックされやすくなります。
実務的には、基準額が低くルールが厳しいほど、出金のたびに情報入力が必要になります。シンガポールや香港は基準額未満なら手続きが軽めですが、まったくないわけではありません。各地の詳細は香港やシンガポールのページをご覧ください。
03日本:金額の下限がないトラベルルール送金

日本のトラベルルールの最大の特徴は、金額の下限がないことです。当編集部の調査では、2023年6月から資金決済法と犯罪収益移転防止法にもとづいて運用されており、bitFlyer、Coincheck、GMOコイン、bitbankなどの国内取引所から外部へ暗号資産を送るときは、金額にかかわらず送金先の種類(取引所か個人ウォレットか)、取引所名、受取人の氏名などの入力を求められます(項目は取引所によって異なります)。
もう一つのポイントは、送金先として選べる海外取引所が限られることです。相手の取引所が同じ通知システムに対応していない場合や、トラベルルールを施行していない国の業者の場合、送金できないことがあります。さらに金融庁は、Bybit、MEXC、Bitget、KuCoin、LBankなど、無登録で日本人向けに営業する海外業者に警告書を出しています。Bybitは2025年10月31日に日本での新規登録を停止し、2026年1月から既存の日本居住者のアカウントも制限しています。グローバル版のBinanceは日本居住者を受け入れておらず、日本居住者向けには登録業者のBinance Japanがあります。
海外取引所から国内取引所へ資産を戻す場合も、受け手の国内取引所が送金元の情報を確認します。名義が一致しない、送金元が対応外の業者である、といった場合は着金が保留・返金されることがあります。どの海外取引所とやりとりできるかは各社の送金画面やお知らせで確認し、初回は少額でテストしましょう。国内取引所の選び方は金融庁登録の暗号資産取引所、日本の制度全体は日本の暗号資産ガイドで解説しています。
04韓国:UpbitからBinanceへのトラベルルール送金

「업비트 바이낸스 트래블룰」(UpbitからBinanceへのトラベルルール)は韓国で最もよく検索される質問のひとつです。Upbitが2026年9月23日に更新したリストでは、Binance、OKX、Bybit、Bitget、Gate、Crypto.com(グローバル)、Backpackがホワイトリスト入りしており、100万ウォン以上の入出金が可能です。Binanceは韓国のGopax買収で韓国に参入し、韓国金融情報分析院(KoFIU)が2025年10月に承認しました。
一方で、KuCoin、MEXC、Phemex、XT、BingXなどは未申告(미신고)の海外業者として掲載され、Upbitは金額にかかわらず入出金をすべてブロックしています。韓国当局は未申告業者へのアクセス遮断やアプリの削除も行っています。
Upbitからホワイトリストの取引所へ出金するときは、受け手の取引所を選んで受取人情報を入力し、受け手の口座は本人名義でなければなりません。Upbitアカウントには2チャネル認証も必要です。100万ウォン未満の送金は現在手続きが軽めですが、2027年2月20日に基準額が撤廃されると、すべての取引所間送金でトラベルルールの情報が必要になります。海外やセルフカストディへの送金はリスク別に管理され、高リスクの相手先への送金は禁止されます。送金を99万ウォンずつに分けてきた人ほど影響を受けますが、そうした分割はそれ自体がマネロン審査のきっかけになりうるため、当編集部はおすすめしません。
規制強化の影響は数字にも表れています。2026年上半年の海外取引所と個人ウォレットへの出金は51.7兆ウォンで、半年で43%減りました。韓国市場の詳細は韓国のページをご覧ください。
まだ取引所の口座がない?対象国にお住まいなら、先に登録と本人確認を済ませましょう。名義が一致していれば、その後の送金がずっと楽になります。Visa・Mastercard・Apple Pay・Google Payで購入 · 日本居住者は対象外
口座を開く05自分のウォレットへの送金:セルフホスト型ウォレットの申告
MetaMask、Trust Wallet、ハードウェアウォレットなどに出金するとき、情報を通知する相手の取引所はありません。その代わり取引所は通常、そのアドレスが自分で管理するセルフホスト型ウォレットかどうかの申告を求めます。日本の取引所でも、送金先として「個人のウォレット」を選び、所有者情報を入力する形が一般的です。
対応はプラットフォームによってさまざまです。「自分のウォレットです」にチェックするだけのところもあれば、ウォレットでメッセージに署名させたり、少額のテスト送金を求めたりするところもあります。韓国のUpbitとBithumbでは、100万ウォン以上を個人ウォレットに送れるのは登録・認証済みのアドレスだけ。香港の認可プラットフォームは非ホスト型ウォレットのデューデリジェンスを義務づけられています。
メリット
- 正直に申告すれば、同じアドレスへの次回以降の送金は速くなりやすい
- 出金先ホワイトリストに登録すれば、アカウント乗っ取り時の防御にもなる
- 大きな金額を自分で鍵を管理するウォレットに置けば、取引所リスクを減らせる
デメリット
- 初回の確認に時間がかかることがある
- 他人のアドレスを自分のウォレットとして申告することはできない
- 虚偽の申告はアカウント制限につながりうる
ウォレットの選び方やシードフレーズの保管はおすすめの暗号資産ウォレットと暗号資産のセキュリティで解説しています。
06暗号資産の送金が止まる・戻ってくる理由
よくある原因を、起きやすい順に7つ挙げます。
1. 受け手の取引所が送り手のリストにない。送り手が相手を見つけられない、または相手が未登録で、送金がそのまま拒否されます。2. 名義が一致しない。片方は漢字やカタカナ、もう片方はローマ字だったり、受け手の口座が他人名義だったり。トラベルルールでは受取人情報が受け手の口座と一致する必要があります。3. メモやタグの入力漏れ・誤り。コインは取引所の共通アドレスに届いても、誰の口座に入れるべきか判別できません。4. ネットワークの間違い。TRC20しか対応していない取引所にBEP20で送ると、コインは見えない場所に「着いて」しまいます。
5. 受け手が追加情報を求めている。資金の出どころや送金元の取引所の説明を求められ、回答するまで着金が保留されます。6. 本人確認レベルが足りない。一定額以上の送受信は上位の本人確認が条件のプラットフォームもあります。7. 送り手のリスク審査。新しいアドレスへの初回送金や、急に大きな金額を送ると手動審査になることがあります。
07ネットワークの選び方とメモ・タグ
同じコインでも複数のブロックチェーン上に存在します。USDTはTRON(TRC20)、Ethereum(ERC20)、BNB Smart Chain(BEP20)、Solanaなどにあります。送り手と受け手は同じチェーンを使わなければなりません。多くの出金画面はアドレスを貼り付けると対応ネットワークを提案しますが、アドレス形式が似ているチェーンでは誤りを止めてくれません。たとえばEthereumとBNB Smart Chainのアドレスはどちらも0xで始まります。
メモやタグが必要なコインもあります。XRPの宛先タグ、XLM、TON、ATOMなどのメモです。日本で人気のXRPは、取引所の入金アドレスが多くの利用者で共有されていることが多く、タグであなたの口座を識別します。個人ウォレットでは通常不要ですが、取引所宛てではほぼ必ず必要です。
出金手数料はネットワークによって大きく違います(暗号資産取引所の手数料比較を参照)。ただしコストは二の次。まず受け手がそのチェーンに対応しているかを必ず確認してください。
08取引所間送金を安全に行う7ステップ
- 両方が適法で利用可能か確認
送り手の取引所の対応先リスト(Upbitのホワイトリストや国内各社の送金先一覧など)を確認し、受け手のプラットフォームがあなたの国の居住者を受け入れているかも確かめます。
- 名義をそろえる
両方のアカウントを本人の身分証で、同じ表記で認証します。他人のアカウントには送らないでください。
- 受け手側で入金アドレスとメモをコピー
受け手の取引所でコインとネットワークを選び、アドレスと、必要ならメモやタグをコピーします。
- 送り手側で同じネットワークを選ぶ
アドレスを貼り付けたら、ネットワーク名が完全に一致しているか確認。よく使うアドレスは出金先ホワイトリストに登録しましょう。
- トラベルルールの情報を入力
受け手の取引所を選ぶか、セルフホスト型ウォレットとして申告し、身分証どおりの氏名などを入力します。
- まず少額でテスト
新しいアドレスには少額を送り、着金を確認してから残りを送ります。
- TXIDを保存し、必要ならサポートへ
トランザクションハッシュを控えておきます。着金が保留されたら、受け手の取引所が求める情報を、公式アプリかサイトからだけ提出しましょう。
銀行口座にお金を戻すためにコインを動かすなら、先に暗号資産の出金方法を読んでください。国内の登録取引所で直接売却するほうが、コインをあちこち動かすより安く、審査にもかかりにくいことが多いです。
よくある質問
暗号資産のトラベルルールとは何ですか?
トラベルルールは、金融活動作業部会(FATF)の勧告16を暗号資産に適用したものです。取引所から別の取引所へ暗号資産を送るとき、送り手の取引所は送金人と受取人の情報(氏名、口座やウォレットアドレスなど)を受け手の取引所に通知しなければなりません。導入時期と基準額は国ごとに異なり、日本は2023年6月から金額の下限なし、韓国は2022年3月から100万ウォン以上の送金が対象です。
日本のトラベルルールには金額の下限がありますか?
ありません。当編集部の調査では、日本は2023年6月から資金決済法と犯罪収益移転防止法にもとづきトラベルルールを運用しており、少額の送金でも送金先の取引所名や受取人の情報の入力が求められます。また、一部の海外取引所への送金は制限されています。送金できる相手先は取引所ごとに異なるため、送金画面のリストを確認してください。
送金が止まったり返金されたりしたらどうすればいいですか?
まず原因を確かめます。多いのは、受け手の取引所が送り手の対応リストにない、受取人名が受け手の口座名義と一致しない、メモやタグの入力漏れ、ネットワークの選び間違いです。トランザクションハッシュ(TXID)を添えて受け手の取引所のサポートに連絡し、求められた情報を提出しましょう。返金は通常ネットワーク手数料を差し引いて戻ります。「送金を早める」「凍結を解除する」という第三者は相手にしないでください。
自分のウォレットに送るときも申告が必要ですか?
多くの規制下の取引所は、送金先が自分で管理するセルフホスト型ウォレットであることの確認を求め、署名や少額のテスト送金で証明を求めるところもあります。韓国のUpbitとBithumbでは、100万ウォン以上を個人ウォレットに送る場合、登録・認証済みのアドレスにしか送れません。通常のコンプライアンス手続きなので、正直に回答してください。
香港とシンガポールのトラベルルールの基準額は?
香港は2023年6月1日からマネロン・テロ資金対策条例にもとづき運用しており、8,000香港ドル以上の送金では送金人と受取人の完全な情報が必要です。シンガポール金融管理局(MAS)は2020年1月から通達PSN02にもとづき運用し、基準額は1,500シンガポールドルです。基準額未満でも一部の情報が必要な場合があります。
参考資料
- FATF — Virtual assets and the Travel Rule · checked Oct 2026
- 金融庁 — 暗号資産関係 · checked Oct 2026
- Upbit — 이용 안내(送金ホワイトリスト) · list dated 23 Sep 2026
- Hong Kong Cap. 615 AMLO · checked Oct 2026
- MAS — Notice PSN02 (AML/CFT for DPT services) · checked Oct 2026
- Korea Financial Intelligence Unit · checked Oct 2026
まだ口座がない方は、最初の1枚から
本人確認を済ませて口座を開けば、あとで送金するときも名義が一致してトラベルルールの手続きがスムーズです。日本にお住まいの方は金融庁登録の取引所をご利用ください。
国際ライセンス取得プラットフォーム · 2013年から運営 · 対象国の居住者向け(日本居住者は対象外)